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大阪高等裁判所 昭和59年(行コ)50号 判決 1985年8月16日

京都市下京区猪熊通五条下ル柿本町六七〇番一〇

控訴人

木村幸夫

右訴訟代理人弁護士

高田良爾

同市同区間之町通五条下ル大津町八番地

被控訴人

下京税務署長

平木正行

右指定代理人

笠原嘉人

玉井勝洋

吉川一三

片岡英明

黒仁田修

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

一  当事者の求めた裁判

控訴人

原判決を取消す。

被控訴人が昭和五六年七月二〇日付けで控訴人に対してした被控訴人の昭和五四年分及び昭和五五年分の所得税更正処分のうち、昭和五四年分の事業所得金額が一四〇万二〇〇〇円を、昭和五五年分の事業所得金額が一四四万六九八八円をそれぞれ超える部分及びこれに対応する過少申告加算税賦課決定処分を取消す。

訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

被控訴人

主文と同旨

二  当事者の主張

当事者双方の主張は、次のとおり付加するほか、原判決事実摘示と同一であるからここにこれを引用する。

1  控訴人の主張

控訴人が税務調査の際、第三者の立会いを求めることは正当であり、その立会いによって税務調査を行うことが困難な場合には、被控訴人はその旨を告げ、控訴人に第三者の立会いの排除を要請すべきである。しかるに、控訴人の依頼に基づいて第三者が立会おうとしただけで、被控訴人の職員は理由も告げず、右立会いを拒否するだけであり、税務調査を行おうとせず、自らの職責を放棄したのである。従って、控訴人としては調査に協力しょうにも協力しえなかったのである。

2  被控訴人の主張

(一)  税法上税務調査に際し無資格な第三者を立ち会わせるべき旨定めた規定は存せず、第三者の立会いを含め質問検査権の行使の態様については税務職員の合理的な裁量に委ねられている。従って、被控訴人の職員が無資格な第三者の立会いを拒絶したことは当然のことであり、事実は、控訴人が無資格無関係な第三者の立会いを税務調査妨害の手段とし、調査非協力の口実としたにすぎないものである。

(二)  課税庁が税務調査について納税者の協力が得られず、やむなく、反面調査により可能な限りで売上金額又はその推計の基礎となる仕入金額を把握して、これに基づいて所得額を推計した場合、仮に納税者が経費の実額を立証したとしても、それだけで真実の所得額が課税庁の推計による所得額より過少であることまで立証されたことにはならず、納税者において売上金額又は仕入金額に捕捉洩れがなく、その主張する売上金額又は仕入金額が真実の売上金額又は仕入金額に合致することをも立証するか、あるいは納税者主張の経費が売上金額(収益)に対応するものであることをも立証する責任がある。

本件において、控訴人が雇人費を主張する以上、該経費の実額のみならず、売上金額に把握洩れがなく、控訴人の主張する売上金額が真実の売上金額に合致することをも立証するか、あるいは控訴人主張の雇人費が売上金額に対応するものであることをも立証すべきである。

(三)  控訴人のような手描友禅業の場合、夫婦、兄弟等身内二人程度で営まれるのが圧倒的であり、雇人を有する営業形態は例外であって、被控訴人が該営業の一般的な形態にかんがみ雇人費を算定しなかったのは当然であり、所得についての主張立証を十分尽しているというべきである。雇人が存在するという例外的事情は、その例外を主張する者において主張、立証すべきである。

(四)  手描友禅業は手作業により一つ一つの柄に色を入れていくものであり、一般的には労働力の投下の割合に応じてその仕事量すなわち売上金額が左右される。ところが控訴人の主張する各雇人に対する支払額と売上金額との対応関係は別表6記載のとおりであり、これによると、控訴人と姉との二人だけで従事していた期間(昭和五五年七月から同年一二月まで)の売上金額と雇人を雇用していたと主張している期間の売上金額は、ほヾ同一となっている。従って、雇人費と売上金額とは対応していないことになる。

三  証拠関係

当事者双方の証拠は、原審及び当審の訴訟記録中の書証目録及び証人等目録に記載のとおりであるから、ここにこれを引用する。

理由

一  当裁判所も、控訴人の本訴請求は理由がないと判断するものであって、その理由は、次のとおり付加、訂正もしくは削除するほか、原判決理由の説示と同一であるから、こゝにこれを引用する。

1  原判決七枚目表六行目「本件税務調査の違法性」の次に「の有無」を加え、同七行目「本件に顕われた証拠」から同九行目「(二)却って、」までを削り、同九、一〇行目「認められる。」を「認められ、」と改め、その次に「右認定に反する証拠はない。」を加え、同八枚目裏五行目冒頭「(三)」を「(二)」と改め、同七行目「原告が主張する」を削る。

2  同八枚目裏八行目「しなければならない。」の次に「なお、被控訴人の職員が第三者の立会いを拒否したことは前認定のとおりであるが、税務調査において無資格無関係の第三者の立会いを認めるか否かは税務職員の合理的な裁量に委ねられていると考えるのが相当であるところ、被控訴人の職員が控訴人に対する税務調査において第三者の立会いを拒否したことは、右税務調査の経緯についての前記認定の事実関係のもとにおいては合理的であると考えられ、裁量権の逸脱があったと認めるに足る証拠はない。」を加える。

3  同八枚目裏一〇行目「本件処分の違法性」の次に「の有無」を加える。

4  同九枚目裏九行目の次行に次の一項を加える。

「当審証人黒仁田修の証言により成立が認められる乙第一四号証の一ないし四一によれば、手描友禅の業界においては、夫婦、親子等の家族従業員二人程度の労働でもって営まれるのが通例であって、他人を雇用することは稀有の例外的営業形態であることが認められる。従って、課税処分における所得金額計算上の消極的事由である(所得税における)必要経費に関する立証責任も原則として課税庁側にあると解すべきものとしても、被控訴人がやむなく同業者率を適用して推計課税の方法により控訴人の所得金額を算定した場合においては、当該業界の通常形態に則り雇人費を認めなかったのは当然であって、控訴人がこれを争い、前記稀有の例外的営業形態を主張する以上、雇用の存在及び雇人費に関する主張、立証責任は控訴人にあると解するのが相当である。

5  同一〇枚目裏六行目末尾に「さらに右乙第一〇号証の二枚目の三月分、四月分が同じく昭和五五年の三月分、四月分となるが、控訴人が同年四月分について提出している甲第八号証の金額とも合わないし、同一人が作成した金額の異なる領収書が存在することになる。また、乙第一一号証の一枚目には控訴人がすでに退職したと主張している昭和五五年八月分の領収書が存するし、乙第一〇号証の二枚目にはいまだ就職していなかったと主張する昭和五四年五月分の領収書が存在する。」を加える。

6  同一〇枚目裏一〇行目末尾に「当審における控訴人本人尋問の結果中、支度金という意味も加えてわざと多くした旨の供述は、前記各領収書の記載の矛盾及び後記認定の知野見章が全くの素人であり、しかも将来続いて雇用する予定ではなかった事実に照らし措信することはできない。」を加える。

7  同一一枚目表四行目「原告本人尋問」の前に「原審及び当審における」を加える。

8  同一二枚目表八行目の次行に次の一項を加える。

「5 当審証人黒仁田修の証言により成立が認められる乙第一二、一三号証によれれば、控訴人の昭和五四年及び同五五年の各月の売上金額は、別表6の「被控訴人主張売上金額」欄記載のとおりであること、これによると、控訴人が馬場由貴子もしくは知野見章を雇用していたと主張する期間とこれらを雇用していなかった期間との各六か月の売上金額に大差がないことが認められる。さらに、控訴人は、当審における本人尋問において、馬場、知野見を雇入れ、仕事の基本から教えて補助的な仕事を分担させたが、直接売上向上には結びつかなかった旨、従って、自分の取り分を減らして二人の給料を支払った格好になるが、そうまでして2人を雇入れたのは、職人として育ててやりたいという気持ちがあったからで、教えたあと続いて一緒に仕事をしていこうとは思っていなかった旨供述しているのであって、そうだとすれば、控訴人が主張する雇人費は前記認定の本件売上金額を得るための必要経費とはいえず、収入に対応するものではないから、控訴人の主張する雇人費は特別経費に該当するということはできない。」

二  よって、原判決は相当であって、本件控訴は理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担について民訴法九五条八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 小林定人 裁判官 坂上弘 裁判官 伊藤俊光)

別表6 売上金額・雇人費対比表

<省略>

(注) 売上金額は、地直し代・値引き・歩引き控除後の金額である。

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